White noise
佐々宝砂
あなたはすっかりひろがってしまって
異常透明のあきぞらを
霞ませるだけの実態すら持たないらしい
昨日のゆうぐれ
おはようございますと挨拶しながら
工場のエアシャワーを浴びたとき
唐突に気づいた
要らないものは要らないので
外してしまえばいいのだ
エアガンがしゅうしゅう唸っても
コンベアがぎゃあぎゃあ軋んでも
とっとっとっじゃあお
かっかっかっびゃあお
歩きながら鳴く猫みたいな
リズミカルなあれは
なんだかよくわからないけど
とにかくあんなふうに機械が喚いても
とんでもなく喧しい
機械のカーニバルのただなか
哀れな工員たちが怒鳴りあって
虚しくコミュニケーションを図ろうとするただなか
わたしは微笑んで耳栓をとる
あなたはすっかりひろがってしまって
あらゆる雑音にぴったりと身を寄せるものだから
もう世界は白色雑音の静寂
初出蘭の会 2006年10月詩集「音」