異様に明るい
カンチェルスキス







 洗剤の泡が
 細胞みたいにまだ
 残っている
 流しの排水口に垂れ下がり
 命乞いの甲斐なく
 数秒後
 消えてゆく
 ネスカフェの紙のふたを
 うまく破ることができない
 スプーンを一つ落とした
 ステンレスの音が
 こめかみの辺りで
 軋んでいる
 




 乾いた線路の砂利の上で
 尻の穴に爆竹を詰め込まれ
 一匹のカエルが
 爆発した
 そのつづく線路の先で
 グレイのジャケット
 ノータイの男が
 急行列車に身を投げた
 男が最後に
 思い浮かべたのは
 フライパンをめぐる
 目玉焼きの
 黄身と白身の揺れ
 頭部は
 小学校のフェンス沿いの
 枯れたあじさい畑で
 発見され
 不法投棄の家電のように
 傾いていた
 男の左腕だけは
 半年経っても
 見つからなかった





 使わなくなった
 扇風機の羽根の隙間から
 日差しが
 漏れている
 避難用の梯子は
 下から激しく燃え落ちて
 もうすでに
 耳の後ろが熱い
 仮眠のために
 投げ出した毛布の中には
 捜索中の男の
 左腕がある
 窓際の
 球根が
 根を張る
 そのさまを
 微細に語り尽くして
 水差しの中の水は
 砂に変わる
 砂漠の砂のように
 少しずつ
 移動して
 痙攣する地下道に
 流れ込んだ






 訃報を知らせる
 やかんの蒸気が
 あがり
 閉じ込められた者たちの
 喘ぎ声が
 聞こえる
 ほの暗いスクリーントーン
 ガスコンロの青白い
 炎が
 高速道路ですれ違う
 車のライトのように
 視線を走り
 尾を引く
 時間が
 テーブルの上に
 しみだし
 さざ波として
 下咽喉の粘膜を
 奪ってゆく
 払拭/
 てっぺんから
 包丁を
 突き刺したラムの肉が
 その肉質が
 四角に切り取られた
 光の一端にはじかれ
 異様に
 明るい






 


自由詩 異様に明るい Copyright カンチェルスキス 2006-10-14 15:17:06
notebook Home 戻る