狼と蠍
shu


ドアを一枚隔てて夜と昼がありまして
月夜の晩にウサギの着ぐるみを着た狼が
こんこんこんと3回ノックした向こうは
太陽の頬が渦巻き灼熱の風が舞う砂漠で
一匹のさそりが穴の周りでクルクルと
回っているのでありました

狼の胸はさそりに刺された毒で大きく膨れ上がり
今にも張裂け破れてしまいそうでしたが
その痛みがたまらなく愛おしく狂おしく
もう一度最後の一刺しをと
再度ノックしようとしましたが
息を潜めてこちらを伺っているさそりの気配が
明かりの漏れた窓から伝わってくるので

そんなに逢いたくないのか
そんなにオレは嫌われてしまったのかと
狼はなんだか急に萎れてしまって
そのまま屋上に登っていったのです

そうしてお月様の光を浴びて
狼はウサギの着ぐるみを脱いで
月が凍るような悲しい声で吼えると
そのまま次第に石のように固まって
息絶えたのでした

さそりは小窓から
はあはあ胸を掻き乱し
歓喜の瞳を潤ませて
その様子を見ておりました

さそりは
狼が死んだことに
気がつかないのでした
狼の目が黒曜石のように
濡れて光っておりました






自由詩 狼と蠍 Copyright shu 2006-10-12 22:05:19
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