単純な留守番
吉田ぐんじょう

りんごは優しく指を濡らし
珈琲は
のどぼとけを笑わせながら
そっとすべりこんでくる

隣のうちのベランダに
タオルケットが干してある
いつから干してあるのだろう
もうずっと前からかも知れない

りんごを噛み砕いたあとに
ふと一人であることに気づいた

留守番をしているだけだと
思い直そうとするのだけど
徹底的に
一人であることに気づいてしまった
何だか取り残されたようだ

窓から見ると
道行く人たちはみんな傍らに
「ともだち」とか云う小さい生き物を
侍らせている
ああいうのは
どこで見つけてくるのだろう
山の中だろうか

柱時計がひとつ鳴るごとに
どんどん不安になっていく
りんごの果汁を
たくさん口に含んだままで
わたしは
何も止められなかった

止むを得ないと思った

そう云えば元々
馬鹿のように単純なんだった




自由詩 単純な留守番 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-10-12 13:05:17
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