論前可読
黒川排除 (oldsoup)

取っ手と とげが二つ付いただけの ちりとりに似た貧相な道具を白い砂が一面広がるなぞの世界に突き立てて 考え事をしている 考え事をするたびに地面に二重丸が増えていくので どうやら考えるという事はその場でただ回るだけの事であるようだ だいたい五十ほど丸を書いたところでいつも一つの閃きが起こり そのつど二重丸の外側と内側の間にその閃きを書き記す決まりがある 内側の円が外側の円に接近する度書かれた文字は形を変えていく どこに そして だれが 書き記したか分からない無数の二重丸が接する地面は 思考するという事をそのように行為する 圧縮されてもはや読めなくなった文字 意味は内側の円に搾り取られる 丸くない角を維持し続けるためにはたとえ人間でもかまきりのように振る舞う必要があるように もはや二重で無くなった丸は円と呼ばれもせずに その中にかすめ取った意味を体現しようとするため 激しくうごめくのだ そういった時には かけがえのない だとか 心から大切に思っていた というようなものは全部 向かおうとしている先にのみ捨てなければならない そして電池を入れるところに砂を詰めた懐中電灯にひもを付けて引きずりながら そのうごめく円を横断しなければならないということを知っておいて欲しい そのとき初めて意味は体現されるためにと円を抜け出し 世界を花なり墓標なり国境で満たす事になるだろう そのために考え事をしている 円は既に楕円とすら呼ぶのにもふさわしくないぐらいだ 円周は激しく曲がりくねっている螺旋だ やがてその螺旋は何かを描くのを待っているかのようだ 描かれるのを待っているかのようだ


自由詩 論前可読 Copyright 黒川排除 (oldsoup) 2004-03-17 00:57:35
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