光冨郁也

そして狼は一頭で、
舗装された道路を、泥で汚れた足で歩き、
駅からマンションが並ぶ踏切を抜け、
渋谷までの国道246号を黄色信号で渡る。

曇り空は湿った風。
吠えるべき月は、ない。
爪で、アスファルトの路面をかく。
戻る荒野も草原もない。

まっすぐ前をみすえる。

やせた身体をかがめながら、
足を伸ばす。
目を見開きながら、
石も転がっていない道を進む。

いま雷が鳴り、雨が降り出した。
ただ一頭。

あるのは、どこまでもつづく、
国道246号。
このさきは渋谷まで一直線。

雨に濡れたその毛並みは、重い。
のびた牙に、くらいつく肉はない。

国道246号。
このさき渋谷をこえて、
雷光がおおう、
スクラップの車列を、駆け抜ける、
その先は。


自由詩Copyright 光冨郁也 2006-10-11 21:58:47
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