ひとつ あかり
木立 悟




光が光をまとうとき
ひかりかげり かげひかり
静かに昇る
譜をめくる指


文字の見えない
明るさの紙に
ひとつをひとつに書きつけて
降りつもる音を見つめている


水になりかけた湯のにおい
指になるもの こぼれるもの
決して円を描かぬもの
文字に重なる文字の音


かがやくものが
よりかがやくものに落とされるのを
道ゆくものは見つめてきた
砂に沈んだかがやきへ
波は羽をはこびつづけた


五つめの鬼の横をすぎ
造られた風は野をめぐる
灯を聴くものはわずかにまたたき
波間の蒼を歩みゆく


光は光のとなりにいて
書く手をじっと見つめている
明るさはひとつの花になり
灯のない道に咲いてゆく


響きの紙も 文字の絵も
はばたく本にまとめられ
ひらくたびに放たれて
夜の窓を照らしている













自由詩 ひとつ あかり Copyright 木立 悟 2006-10-11 16:15:26
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