雁 火口湖 山肌 他 ・・・
杉菜 晃
◇雁
ビルの間を
雁が渡る
窓からいくら叫んでも
届かない
天上の
賑はひをもつて
◇火口湖
火口湖に
白鳥がひとつ
燃えてゐる
◇山肌
この夕陽に
枯山の崩れが
痛々しい
◇浮き寝鳥
浮き寝鳥は
空にゐるときよりも
安らかだ
水に浮いて
空をゆく
夢を見てゐるから
◇夜汽車
旅の夜汽車は
燃え盛る火事場を
黙殺していく
◇無人の駅
電柱のてつぺんに
鴉が留まり
信号手を務めてゐる
身を上下に振つて
◇白梅
白梅が
寝呆け眼に
灯つてゐる
◇天の川
旅人が通りかかると
峡の灯を余さず吸ひ取つて
天の川が架かつてゐた
この村に
人はもう住んでゐないのだらうか
◇雲雀
雲雀は蒼穹に貼り付いて
地上に金銀をばらまく
大空に雲雀の姿を探さうとすれば
太陽の目潰しをくらつて
くしやみが出る
◇草笛
ふる里の
丘に坐つて
破れかぶれの草笛を吹くと
得意絶頂の鳥が黙つた
◇昼寝
うたたねの男は
終始
怒号の鳥と諍つてゐる
◇柵の外
栗林は
豊穣を抱へ込めずに
柵の外に
栗の実を
弾き飛ばしてゐる
◇樹
吾が夏野には
常に
オアシスのごとく
すつくと一樹が立つてゐる
◇秋暮れて
ぼろ傘のやうに
ささくれた鴉が
飛んでゐる
ああ ああ
と嘆息しながら
◇石榴
日を蓄へ
見目形のかなたに
充実してゐる
◇花野
いつの頃であつたか
いづこの土地であつたか
ふと見た花野が
私の中に一杯に広がつてゐる
◇営為
名もなき沼に
一羽のカイツブリ
水に潜りては
輪をつくる
◇牡丹
牡丹が散つてゐる
あへて
風のない時を
選び取るやうにして
◇あぢさひ
羊が濡れて
一固まりに
なつてゐる
丘のあぢさひ
◇日の照る丘
我が視野の果てには
日の照る丘があり
四方から小鳥が吸ひ寄せられていく
どの辺りなのか
見当もつかない
いつも遠景にとどまつて
あたたかく枯れ尽くしてゐる