flower 〜地上波の花〜
umineko

地デジがやってくる
大股で闊歩して
この街にもやってくる

くっきり画面を携えて
番組予約も楽々で
裏情報もばっちりで
夢の生活必需品

液晶画面の向こうでは
だけど
昨日と変わらない
視聴率を取るための
テロップ
決めつけ
傍観
怒声

地デジがやってくる
大声でやってくる

きれいなものが正しいと
みんな
信じたがっている


  *  *  *  *  *  *

地デジがやってくる。のだそうだ。

未だに我が家はブラウン管なので、すでに世界から2世代遅れた感もある。VHSビデオもあわせればさらにお値打ち。この前も、雑誌付録のDVDを再生するのにPS2に頼らなくちゃいけなかったし。はは。

何が便利で夢の未来なのかよくわからない。録画が便利とか、文字情報が云々とか、まあはっきり言って関係ない。買い物したいなら出かけるし、なんとなればネットで済むし。

ただ、行き来する情報量は倍増するんだろう。そのあたりはなんとなくわかる。ただ問題は、我々の情報処理能力にはおのずと限界があるということだ。今後、いやもうすでに現在でもそうだが、情報があまりに増え過ぎて、我々は見出しばかり追っている。ここにある情報だけでも我々はお腹いっぱいだ。ネットの巨大掲示板でも使えば、裏情報でもさくさく手に入る。真偽は、かまわない。新聞もテレビも同じだから。まだ意図がないだけネットの方がマシかもしれない。

個人情報だって、いくらでも手に入るそんな時代も遠くない。ただ、特定の人が特定の時間に何を感じているのか、それだけが、すっぽりと抜け落ちていく。きれいな花壇にきれいな花を植えるけれど、その花の生い立ちを誰も知らない。

そのうち、さ。

恋愛も死語になるかもしれないな。だってわからないから。あなたの気持ちあなたのこころ。検索してもヒットしないし、チャンネル替えても映らない。そんな謎のコトガラに、時間なんて注ぎ込めないね。そんな時代が、そこまで来ている。

せめてこれがトレジャーハンターなら、見つけるかどうかが勝負。だけど恋愛は違う。見つけて、そして、見つけてもらわないと。力づくも裏ワザもない。どんなマニュアルもそこにない。

地デジが始まっても、何も変わりはしないだろうって、正直、私は思ってる。少しだけ何かのアクセスが楽になり、待ち時間が短くなる。膨大なコストと手間が生むのは、そんな個人の時間なのだ。

それを地デジに注ぎ込んであげるのが、まあ筋かもしれないけどさ。でもま、私はそんな時間を、これまで以上にわがままに過ごしたい。

夕焼けを見る。空を見上げる。口笛を吹く。

私がひとりであることを。
ただ確かめるためにだけ。
 
 
 


散文(批評随筆小説等) flower 〜地上波の花〜 Copyright umineko 2006-09-25 07:27:55
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