修正液で消しちゃって


雨の降る、
ひんやりとした夜、
あたしは かれ、と外食をしたあと
よれよれのビニル傘で相合い傘をする
パンプスをはいたあたしのズボンの裾はぐちょぐちょで
かれ、はやさしく、裾を折り曲げてくれる



街頭の光でつやつやになった歩道橋を二人で歩く
昔、おとこのひと、と手を繋いで歩いた道を、
いま、あたしは、かれ、と歩いてる



あたしの右肩が雨粒でどんどん塗れてゆくけれど、
わざとバス停を一つ、気付かないふりして通り過ぎる
あたし、べつに、かれ、のこと、好きじゃないのに



今日も、また、
昔とおなじ、バス停で
昔とおなじ、夕方に
あたしは かれ、のおうちに向かってバスに乗りこみました
そして今日も、また、
かれ、はちゃんと
駅まであたしを、送ってくれるのです



そして明日も、また、
昔、かよった おとこのひと、のお家を通り過ぎて、
かれ、の元へ向かいます
いまだに くうはく を埋めてくれない、
かれ、の元へ向かいます
あたし、嫌いじゃないのよ、かれ、のこと



あたしが、びょうき、だったころ
昔の、おとこのひと、と一緒に
食べたドーナッツを
今日、かれ、は、
本当、に おいしそう、に口にほおばっていました





あたしのことは食べてくれないのに





ぐるっ、と、駅を一回りしてから
最後に、ばいばい、
改札を抜けて、
うしろなんか、ふりむきもしなかった、
あたし、
ばいばい


自由詩 修正液で消しちゃって Copyright  2004-03-13 17:21:24
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