詩人の追悼
I.Yamaguchi

例え辞めろと言われても僕はあなたの葬式を泣きたいのだ
自分が死んだとき世界中の人に祝って欲しいと謡った詩の通りに
臭い水に潜って焼かれるあなたは
肉の焼ける生臭い蒸気で汽笛を鳴らしながら
ひらりひらりと空に舞うのだろう
焼け残った骨も全ての人間から汲み取ることのできる
磨けば軽やかに水と共に排水溝に流れ行く
歯の間につまった削りカスや
紙の上にかかれたインクや
ゲロといっしょに吐き捨てられる言葉の羅列に飛び乗り
土の中のさらに下を突破して
僕らが触れる事のできないほど下にある空の果てから
「星を見る日には僕を思い出してください」
と君は笑うのだろう

だからこそ僕は君の死を泣いてしまうのだ
ここから見える星はカンパネルラに会える南十字星ではなく
柄杓ですくわれることのない北極星なのだ
記憶からでは思うように
君をすくい取ることができないから
東京の僕は君の死をいたむのだ。

君の見るだろう南十字星が
オペラハウスの脇で僕が見る南十字星ではなく
一つ一つの星の細かい連なりだから
シドニーの僕は君の死をいたむのだ

肉やカスの塊に包まれて奇麗な空に行くあなたを
肉やカスだけでなく愛や政治でドロドロに味付けされ
とても食えたものじゃない、ぬるま湯のような世界の中で
言葉で自分を形作ることから逃げ出した奴として
僕は君の死を罵り、そして哀れむのだ

だけど本当は
寂しくなることを恨んでいるのだ 僕自身が取り残されたことを
同じ星にたまたま生まれついている限り
会うたびに憧れの目で見た君と
繋がれるかもしれなかった僕は
もう絶対に一つになることはできないのだ
もしも僕が死んだあと星になることが出来て
毎晩隣同士に光っているように見えたとしても
実は光の速さで動いて何年分も離れた場所にいる君は
体よく僕を避けおおせるのだ

だから君が煙に乗り込むその前に
君の全てを失った僕は
一時君をこの世によこせと
大声で天に叫び地を踏み荒らすのだ
僕の体を依代に
君がありえないほど僕の心の近くに来ることを祈るのだ
煙となって一つの体から飛んでゆく君の心の
僅かな部分を体に閉じ込めて
木の根のような神経で吸い取りながら
君が見えない日々を静かに生きようと
僕は泣きながら踊るのだ
迷惑をかけ続けた在りし日と同じように
好きなように君を消費しながら
おどろおどろしく僕は一人生きるのだ


自由詩 詩人の追悼 Copyright I.Yamaguchi 2004-03-13 12:19:39
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