梨の真昼
石瀬琳々

深閑とした梨畑で
ひとり 蜂の羽音を聞いていた
風は足音もせず忍び寄り
あれは少女だったろうか
黒い瞳の きらめく星の


かすかにふるえるのは
僕の胸の鼓動なんだ
こんなにもうるさくつきまとう
あの黒い瞳を見てしまったら
瞳を覗き込んでしまったら


昼の陽に光り
梨の実がたわわに実る
たぶん少女に似ているから
僕をとこしえに誘うんだ
ひとつ齧れば蜜の味


滴る汁をぬぐいもせずに
僕はくちびるをみだらに濡らしたまま


気付けば蜂はどこにもいない
気付けば僕はひとりのまま
何かを失ったんだ
何かを知ってしまったんだ
少女の幻は光の遊戯


甘くむんと香る梨畑で


自由詩 梨の真昼 Copyright 石瀬琳々 2006-09-22 15:32:27
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