梨の真昼
石瀬琳々
深閑とした梨畑で
ひとり 蜂の羽音を聞いていた
風は足音もせず忍び寄り
あれは少女だったろうか
黒い瞳の きらめく星の
かすかにふるえるのは
僕の胸の鼓動なんだ
こんなにもうるさくつきまとう
あの黒い瞳を見てしまったら
瞳を覗き込んでしまったら
昼の陽に光り
梨の実がたわわに実る
たぶん少女に似ているから
僕をとこしえに誘うんだ
ひとつ齧れば蜜の味
滴る汁をぬぐいもせずに
僕はくちびるを淫らに濡らしたまま
気付けば蜂はどこにもいない
気付けば僕はひとりのまま
何かを失ったんだ
何かを知ってしまったんだ
少女の幻は光の遊戯
甘くむんと香る梨畑で