独占欲リズム
I.Yamaguchi

?


一発やり終えて俺の上で抱きついたまま、お前は

ある歌を歌いだしたんだ

俺も知っている歌だったから適当にハモっていると

俺があまりにも音痴だったせいか、急に歌を止めて

秒針のせいで思い出した、といったんだ

一分間に六十回なる歯車の音が

一分間に百二十個のる四部音符につながれて

外にもう誰も歩かない丑三つ時の暗闇で

冷えないように体を俺の胸と毛布の間に置いたまま

ある曲の一節がその曲よりあまりにも小さな人間を思い出すのと逆に

均質で空虚な時間の分け目から変化に富んだ曲を思い出したんだお前は
?

朝日がカーテンから入る頃

俺はもう一度お前に手を伸ばした

眠りの世界から人間に戻ったばかりで

知恵の実のもたらす恥を知らず

あられもない声であえぐお前 の中に入っていった俺は

突き上げて、どんどんお前の中に融けていき

もっと奥まで入り込もうと背筋を上にそらせた まさにそのとき

太陽の光が目に入った

東向きで寝ていたんだから仕方がない

西向きで寝たら本当にあの世に逝っちまうからな

俺は腰の動きを止めずにまぶたをぬぐったのだけど

目をつむった瞬間に秒針の音が耳の中に入り込み、

カチ カチ カチ とあまりに単調すぎる音が


ビンカンになった俺の体を捕らえてしまったんだ

無理もない紀元前のギリシャでアルキメデスは歯車を

天空の星の動きを模倣する機械を作る素だと言ったのだから

?

秒針に絡め取られた俺はいつしか自分の腰が

一秒に二回ずつ動くのを理解した

一分間に百二十回振れる自分の体があの曲にとらわれないように

動く回数を増やしたが、気づくと今度はその動きが秒針と相まって

一分間に百八十、二百四十の歌が頭に浮かんできたんだ

お前は俺のものだと叫ぶ動きが

たった一、二分の間に固定されたリズムに変身して

沢山のお前でない音色を

俺の中から取り出して響かせようとした

?

俺は自分の耳が音に覆われる前に前にと

自分の動きを小刻みに変え始めた

三回浅く 一回深く 五回浅く 一回深く

七回浅く 二回浅く 一回深く

・・・

・・・

突いていくうちに動きの変化の激しさに萎えかけた俺は

お前の声に耳を済ませた。お前の声はいつも俺を奮い立たせる故

するとお前は俺が一番奥に入ったときでも引いたときでもなく

中途半端なところで鳴いているんだ

俺はお前と一つになりたいのに

「応答」という言葉が一つではなく 

二つの「こたえる」という漢字でできているように

俺がお前を一番近くで感じているときでも

遠ざかって一番お前を欲しているときでもなく

動きと動きの中間でお前は俺に答えるんだ

俺が動きを変えるときを表拍だとすると

所詮俺は裏拍でしかおまえを鳴かすことができないんだ

?
・・・

・・・

表も裏も消えよとばかりに それができなければ

俺も裏拍で感じられるように

ウラウラウラとお前を激しく突き始めた俺は

いつしか腰が浮き出して軽くなり そして秒針の音が耳に入らなくなり

お前も目に入らなくなるくらい ドンドン上り詰めていったのだけど

ラストスパートをかけようとした まさにその時

お前は俺に「痛い、やめて」と言ったんだ

俺がお前に本当に融けようとした まさにその瞬間

俺はお前から締め出されたんだ

お前だけを見ようとする動きでは

自分もリズムにノリ切れないといわれて



自由詩 独占欲リズム Copyright I.Yamaguchi 2004-03-13 01:54:06
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