才能ある男はこんな詩は書かない
狩心

だから僕が書きます。

僕が生まれた時
町の中に小さな森と小さな川があった
森も川も縮こまっていて/肩身が狭そうだった
本当は大自然の中に/町が点在しているはずなのに
子供が認識できる世界はとても狭く
町が僕にとっての大自然だった

成人になったら
大きな山と大きな海がある場所に移り住みたいと、考えていたんだ
大都会に生まれてしまった僕が取り戻したいもの
それは社会との戦いではなく
地球と戯れたいということ
体で感じたかったこと
いっぱいあるんだ

もう頭の中は滅茶苦茶でさ
信じられるものは肉体の感覚ぐらいしかないよ

疲れてしまった僕は
魚になりたい
鳥になりたい
花になりたい
ありんこだっていい
みみずだっていいさ

宇宙の闇だっていい

人間として生きるのはもう今回が最後でいいよ
神様、聞いていますか?

私の頭の中から思想を取り除いてください
良心や欲望も取り除いてください
私の心の中にブラックホールを植付けてください
そしたら全部、吸い取ってくれるのかな
からっぽになりたい
ただの肉の塊になりたい
土に還りたい

呼び止めてくれる人はいないから
僕が僕を呼び止めるよ

おまえの自然は、あの忌々しい町だろう?
おまえの故郷は、その疲れ果てた心だろう?
捨てて行くのか?
子供の頃のおまえが、おまえに置き去りにされて、町の中心で泣いているというのに、
おまえは置いて行くのか、
今にも崩れ落ちそうなビルがひしめき合って、呪文が完成してしまう前に、
おまえが考えた、その疲れ果てた呪文を叫んでみてくれ、
アスファルトのひび割れが、子供達を飲み込んでしまう前に・・・・・・

風のささやきに背中を押されて
僕はあの、荒れ果てた町に帰ります

変えたい事がいっぱいあるね
僕一人じゃ無理だ
だからみんなの力を貸してください

僕の町は僕が愛します
だからあなたの町はあなたが愛してください

心の中に大きな山があり、山彦のように呼応する
心の中に大きな海があり、波のように何度も何度も打ち寄せてくる


自由詩 才能ある男はこんな詩は書かない Copyright 狩心 2006-09-20 09:31:54
notebook Home