天使祝詞 ミカエル
The Boys On The Rock

 仏蘭西語よりも希臘語よりも陰気な羅典語よりも
 英語の発音が好きだ だから
 私の名前を呼ぶときは
 英語の発音で呼びかけてくれ

ルシフェルとの戦いで
華々しい戦果を挙げたのは遠い昔のこと
いまでは退役軍人である私
最近では カリフォルニアの日差しの下で
マルボロをくゆらせ
卑猥な冗談を飛ばす年齢不詳の男である
西洋絵画で 長髪のアルバ姿で描かれてはいるが
Navy風のコーンヘッド
タンクトップとブルージーンズで
(ちょっとホモ臭い格好だが)
安酒と紫煙に酔っている 現在 の姿のほうが
元来の性には あっているとは思う
混乱の世紀末 二千年紀が終わる直前
とうとう 天上の父に
気の進まぬ問い合わせをしなければならなくなった
ここ百年ばかり 迫りくる黙示録の決断の不安に
私は 安酒で憂さをはらすしかなかったのだ
問い合わせの内容は もちろん手元にある
黙示録のラッパの処遇について
(本心から終わらせたくは無かったのだ)
おそるおそる 天上の父に向かい意思確認の呼びかけ
Quo Vadis, Domine ?
1秒 2秒 3秒・・・返事は無い
父のお得意の沈黙
またしても地球の処遇は先送りされたようだ
Thank You Dad !
神学者を悩ますテーゼも私には好都合
ついでに私は
お気に入りの皮ジャンとハーレーダビッドソンと
恋人スミコの生命の延長手続きを一緒に申請する
すかさず微妙に険のある表情を浮かべる父の顔
だが 気づまりな仕事を済ませた私の心は
早々に父の御胸から遁走していた
晴れ晴れとした気分で街に戻ると
深いターコイズブルーの 西海岸の空
美しい肉体を見せびらかす男女の嬌声
明解な美しさと快楽
この世界は美しく、人間のいのちは甘美なものだ
ゴータマの気持ちも 今なら分かる
今夜も 夜の街へ繰り出そう
美しい世界と 甘美な人間のいのちに酔いしれよう
数百年分の憂さの晴れた反動もやはり酒か と独り言
そういえば今宵 アンクルサムの店では
懐かしのジャズセッションをやるらしい
いかした連中が久しぶりに集まるだろう
ふと 昔の同僚
陰気なガブリエルでも
誘ってみようかと思ったが
ハウスやトランス系の好きな奴には不向きの曲目ばかりなので
誘うのはやめることにした
夜通し飲み明かした後の
清澄な眠るプラナの満ちる早暁
ジンの酔いが心地よく
裏路地で立小便をすると
そのときだけは はっきりと
父の叱責の声が耳に届いた
そこで 放尿中ずっと
天にいますわれらの父よ 御名があがめられますように
と 唱えて
今回も地球を大目に見てくれた父に
感謝の意を伝えたのだった


自由詩 天使祝詞 ミカエル Copyright The Boys On The Rock 2006-09-16 14:57:49
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