山里の女
杉菜 晃


 
山里深く
美しい女が独り
淋しく庵を結んでいるとの噂を聞きつけ
伊達男や
誇り高い益荒男どもが
我こそはと
鼻孔をうごめかせつつ尋ねて行ったが

その度に女は
こんなときを想定して訓練してある
蜜蜂の軍団を解き放ったので
その先へと
詰めて行くことは出来なかった

容赦ない蜜蜂の攻撃に 
頭を抱えて川に飛込んだものや
刺された顔が三倍に脹れ上がり
激痛を堪えきれずに
掻き毟ったため
二度と見られぬ顔になった者もあった

女の庵は
聖域として
人界から切り離され
はるけく色香のみ
棚引く所となっていった

女はローヤルゼリーの
効験もほしいままに
ますます妖艶に耀いていき
男どもの空想の中にのみ
生き続ける事となった

永久に手の届かぬ美貌の女として
巫女として君臨していった
なかには隅に置けない雌狐のように
把握している者もあったかも知れぬ

しかるに女は
隔絶するのが 己の天性とは
毫も認識していなかった
そこを天界の幕屋と定め
命にとって不可欠な
乳と蜜を
祈りのそよ風にのせて
人界へと送っていたのだ

          
「詩と思想」掲載作






自由詩 山里の女 Copyright 杉菜 晃 2006-09-16 14:56:20
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