ふたりのちから
恋月 ぴの

某国営放送で観たイカ釣り漁のようす
脱サラして漁師になった夫を
影に日向に支える妻のけなげな姿
あれって夫婦舟っていうのかな
なんだか憧れてしまう、わたしがいる
確か奥さんの実家は代々の漁師で
だんなはお義父さんに漁の手ほどき受けたらしい
わたしの実家なんて公務員だし
今彼だってガソリンスタンドの店員さん
ゲンチャにニケツのノーヘルで
ふたりのアパートへ帰ってくる毎日
上村一夫の世界なら
何にも無い四畳半にふたりなんだろけど
とりあえず何でも揃っているよ
エアコン、洗濯機に冷蔵庫、それと
元彼が組み立ててくれた自作パソコン
テレビだってちゃんと観れるし
音楽だってがんがん聴ける
ファッションだってセシルにタバサ
近所の99なら時給安くたって生活出来る
でも何か物足りない毎日
大好きな今彼と一緒なのに
何かが欠けている気がしてしまう
ふたりで通うスロットも、
ゲーセンも、
プリクラも、
サイゼリアも、たまのエッチもみんな飽き飽き
これって贅沢なのかな
でもね、いつも思うんだ
ふたりで何かを築き上げたいって
屋台とかどうなんだろう
今彼が屋台をえっちら引いて
わたしがよいしょと押して
でもさあ、いまどきリアカーなんて古臭いよね
せめて可愛いワンボックスの軽自動車で
おしゃれな揚げパン屋さんかな
お弁当屋さんもいいよね
ロングアンドワインディングロードをとことこと
ふたりで演じるロードムービー
ふたりならきっと見つけられるのかも
ふたりならぜったいなんとかなるのかも
ひとりじゃできない
ひとりじゃ寂しい
帰りが遅い今彼のために頑張った手作り料理は
レトルトカレーになんちゃってカニサラダ
冷やしてあるんだ今彼の大好きな発泡酒
部屋一杯に干した洗濯物って
うっとうしいったらありゃしないけど
イカ釣り船のぴかぴかランプに見えなくも無くって
わたしって、なんだか今夜もうきうき気分





自由詩 ふたりのちから Copyright 恋月 ぴの 2006-09-05 07:55:12
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