追憶と天使
白雨

 今日もまた日は西より出で東へ沈み
 私の憶い出は汚れた鉄格子の窓を進む。
 雲を破る白い太陽の光は
 さびしく僕の感傷をあぶり出す。
 この部屋に居る僕の心を
 広場の噴水に残された少女の心が知っている。
 彼女は死ぬだろう、
 噴水は彼女の心残りを天に吹き上げて
 憂鬱な冷たい肉体は水底深く
 沈められるだろう。
 
 夕闇は降りて、
 暗がりに憶い出は褥をひくだろう。
 白い天使がやってきて、
 僕の心を慰めてくれるだろう。
 それなのに、僕は知らない
 僕がどうして心地よいかを
 それにもまして
 こんなにも心苦しむのかを。
 おお、憶い出は
 いつでも心狂わせる。

 いつでも心狂わせる。
 おお、せめて、
 月こそ出ればよいものを、
 光の中で、僕の心は
 道理を知りも出来ように。
 それを嘆いて何になる?
 すべてはそれが原因だ。
 道理を知りさえしていれば、
 この鉄格子、
 気狂いも、
 すべて見下げてわらうもの。

 天子は隠れて逃げてゆく、
 僕に姿を見せぬまま、
 それと同時に、
 心地よさ、
 心苦しさ、
 これらも同じに消えてゆく。
 そうして僕に、
 憶い出の褥だけが残る。
 虚しい悲しみだけを胸に、
 僕はそのうち無知の眠りに誘われる。
 
 冷たい噴水の音を格子窓ごしに聞いて・・・。 


自由詩 追憶と天使 Copyright 白雨 2006-08-31 16:06:07
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