晩夏 〜蝉の臨終〜
服部 剛
そうしていつも、一つの愛は
踏み
潰
(
つぶ
)
された駄菓子のように
粉々に砕けゆくのであった
そうしていつも、一人の
女
(
ひと
)
は
林道を吹き過ぎる風のように
昨日
(
かこ
)
へ消えゆくのであった
ふと立ち止まり、見上げれば
木々の間のざわめく空に
雲の白鳥が、翼を広げて飛んでいた
見下ろせば
幹を離れて地に落ちた
独りの
蝉
(
せみ
)
が、息絶え絶えに
細足で、何かをたぐり寄せていた
短い生を、懐かしむように
夏の終わりの暮れ行く空を
一心に焦がれて呼んでいた
自由詩
晩夏 〜蝉の臨終〜
Copyright
服部 剛
2006-08-27 04:40:10
縦