月に降る雨
吉岡孝次
光線を照射する角度を
特定すれば
ヒトの衛星にも画は届く
彼らは知らない
いのちを育むのに
空気など要らないことを
霊長類とやらには青く映る
あの中庸の惑星で
雨 と称される恵みと循環が
ここにも
但し我らにしか受け取れぬ位相で
降り注ぎ
ひっそりと
しかし考えようによってはこの上もなく
賑やかに
時を告げる
地に
波紋はひろがり
星の眺めを
明暗を利かせた湖面へと 書き換える
今までも
そして今も
静かの海 を生かしたければ
記したければ好きに呼ぶがいい
だが
こんなにも
争いと愛とで 恩寵と試練とで
「月」というこの系は
笑いという笑いが少しも絶えないのだ
光線を照射する角度を
特定して
ヒトの衛星に画を届ける
交差しないことで
渦巻く嵐にさえ比すべき自らへ
行き着けるように