ありのまま
ANN


「何で眼鏡かけないの?」

と聞かれたので
『目が2ミリくらい一回り小さく見えちゃうから』
とか
『コンタクト恐怖症なの』

とは答えずに

ちょっと詩的なことが言ってみたくなって
「見たくないものが見えちゃうでしょう」
と言ってみた
反応を楽しみにしたら
その人はちょっと考え込んで
「なるほど。そういうのもあるよね」
と知った振りをした


私はさーっと
夢から冷めてしまって
心の中では外人がするみたいに
ため息つきながらぽっかり口をあけて
肩をすぼめた

この人じゃない

私はさよならも言わずに車を降りた
わけが分からないと思われても
仕方ないと思う

私はそんなことをしながら
いつも夢の中にいさせてくれる人を
探していた

どこでだってそう

男は夢を見る生き物と聞くけど
でもそれは私の居る夢とは違うんだ

でもどこかにいるはず
思いもよらない
びっくりするような楽しいことを言ってくれる
夢を倍増させるような
世界を共有できる人が



でもこの前車に引かれそうになって
強制的に眼鏡を買わされた
そしたら部屋にあったお花が
造花に変わった

白い壁は汚れていた

服に犬の毛がついていた

両親が急に老けた

自分の位置より一歩引いて見るような感覚が
なくなってしまって
私はこの世界の住人になった

勿論 目は一回り小さくなった
(誰も気付かないと妹は言うけど)

顔がはっきりと映ると

私は恐怖で駆け出した

気付くと赤い月がすぐそばにいた

クレーターが見えた
初めてこの目で見たものだった

その次の日から私は星と話をすることにした

アスファルトの地面に寝転ぶと
横をリアルな虫が
のっそ のっそ とゆっくり歩いていた

怖くはなかった
ただ私は
一体何を“ありのまま”と呼ぶのか考えていた








自由詩 ありのまま Copyright ANN 2006-08-17 22:04:50
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