湘南、夏
銀猫

浜辺に群がる人波が
ひとしきりうねって退いたあと

待ち兼ねていたように
波音は膨らみ
熱を孕んだ砂の足跡も風に消されて
浜は打ち上げられた藻屑の褥(しとね)になる

風が
湿り始めた


波打ち際のはかない泡の子らが
くすくすと笑い声をあげ
弾けては
また無数に散らばってゆく

   七里ヶ浜の夏にいる

喧騒を癒す海風に恋がれていた
いつからか
この海にこうも恋がれていた


丸みを帯びた水平線の前では
わたしはこんなにもちいさく
取るに足らない砂のひと粒なのだ
質量を持て余すこころが
砂粒をうらやんでいたのかも知れない


青に呑まれ
波にさらわれ
浮き沈む

   夏にいる


自由詩 湘南、夏 Copyright 銀猫 2006-08-14 18:09:54
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