僕にはこの夏が
シホ

この夏が始まる頃に
僕にはわかっていたんだ
僕には二度と
夏がやってこないだろうということを
僕は知っていたんだ
だから僕は
すべてをほうりだしたいと思いながらも
すべてを見届けるために
ここに立ちつづけなければならなかった

夏の夜明けに僕は足を止め
刻々と明けゆく空に見入ったものだった
この美しさだって
僕らの苦しみと源を同じくする
僕らはなぜ
苦しまなければ生きられないのでしょう
そして幾つもの夜と朝を
目覚めながら見つづけなくてはならない

僕にはこの夏しかない
よどんで動かない空気の中で
この言葉はもはや呪文のようだ
まっさおな真昼の空には
一片の雲もない
僕にはこの夏しかないんだ
唱えながらまた
僕は境界のあたりを歩き始める

ああ僕には
この夏があるのみ
夏にやってくるあの
わずらわしい虫たちをひねりつぶすうち
僕はどうやら
一匹の白い虫を
殺してしまったようなのだ
ああ僕にはこの夏が


自由詩 僕にはこの夏が Copyright シホ 2006-08-12 23:29:17
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