夏日
杉菜 晃

 暑い日だ
 こんな日は
 私にパラソルの女が
 寄つて来る

 女が来ると
 私もパラソルの陰につつまれる

 ―日盛りに
  ぼんやり立つてゐると
  日射病になるわよ―

 女は私の母でもあり
 姉でもある
 ともにもう
 この世にはない

 それでも私が日盛りに
 立つてゐると
 陽炎のなかから現れて
 パラソルをさしかける

 真夏日には
 生ビールでもぐいとやつて
 冷たい木椅子に
 腰掛けてゐるのがいい

 女も
 夏のビールには
 やさしい
 日盛りに立つよりは
 いいからだ

 路上には夏の日が
 白く弾けてゐる
 私は鄙びた酒場の
 木椅子に鎮座して
 生ビールを傾けてゐる
 日は燦燦と路上に降り注いでゐる

 人を待つてゐるのではない
 しひて言へば
 目くるめく光を待つてゐる

 路上に立つと
 女がうるさいから
 かうして
 酒場の木椅子に腰掛け
 おもての光の洪水を眺めてゐる

 電信柱のてつぺんで
 蝉が鳴いてゐる
 炎熱に狂つて鳴いてゐる


自由詩 夏日 Copyright 杉菜 晃 2006-08-11 20:16:19
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