し
木立 悟
し と
くちびるに露をあて
朝の光を遅らせる
草の根元の幽かな揺れに
応える静かな笑みがある
雨の日
葉を持ち
あふれるうたの指揮をする
道のうた 流れに映るうた
やがてどこかへ干いてゆくうた
目に残された水たまりから
無いものの火がやってきて
曇へと至るしるしを踏む
こぼれても こぼれても
尽きることのない滴を歩む
ふいに吹かれはじめる青
晴れが晴れに運ばれる先
粗く積まれた空の一角
落ちてゆくかけらの内側に
青と白は重なってゆく
静かな指が静けさを脱ぎ
さらに静かなはだかとなり
草の根元に生まれる水に
し と
無言の約束をする