恋忘れ草
石瀬琳々
恋はもう忘れました
涙はもう忘れました
夕暮れ 野辺にぽっちりと
紅く咲く花は火を燃したようで
その火に触れたら焼かれてしまう
心も指先も あの日の記憶もすべて
恋は忘れました
傷も忘れました
あのひとが与えてくれたこの傷も
焼かれてしまえば
痕
(
あと
)
は残らず
燠
(
おき
)
が幻のようにくすぶり続ける
きれいだと眺めていればそれですむ
紅く 紅く 何て美しい
せめて沈みゆくこの最後の残光に似せ
恋はもう忘れました
ため息はもう忘れました
誰にも知られず花を摘む
夕闇の白い指先が血ににじむまで
恋忘れ草 恋忘れ草
あのひとのあのまなざしを忘れるために
自由詩
恋忘れ草
Copyright
石瀬琳々
2006-08-04 16:17:21
縦