むかしばなし2
佐々宝砂

牛が生まれる
大騒ぎしているのは人間ばかりで
牛は慣れたもの
これで五度目のお産だ

まだちいさいわたしは
目をみひらいている

子牛は逆子で
おじさんは苦労している
どうやったものか
どうしても思い出せないけど
ぐるんとひっくり返して
ひっくり返ったから
牛は頭からずるり

後産がでてくる
おじさんがひっぱりだす
赤くて黒くてなまぐさい

子牛は小さすぎた
やせすぎていた
とうとう立てなかった
こりゃだめだなとおじさんが言った
おとうさんがハム工場に電話した

子牛が飲むはずだった初乳は
おかあさんが鍋で煮て
もろもろのチーズにした


初乳→出産後はじめて出る牛乳。濃すぎて売り物にならない。


自由詩 むかしばなし2 Copyright 佐々宝砂 2004-03-03 17:07:48
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