ぼくはぼくになりたかった
アルビノ

本をひらけば詩人が語り出し
テレビの中では
ミュージシャンが愛をうたう
みんながぼくの中に
理想や空想をむやみに植えていく

まだ種であるぼくは
なに色にでも染まるよ
アサガオでもねむの木でも
なんにでも育っていくよ


     4月になれば
     両手をひろげた桜に憧れ
     6月のあじさいに
     ひとみを奪われる
     ぽとりと落ちる椿
     死に焦がれる少年の想いを抱いた

     桜になりたかった
     あじさいになりたかった
     椿になりたかった


子ども染みてると
誰かが嗤う
ヒーローに憧れる子どもみたいだと
続けて嗤う

なに色にも塗り替えられてゆく
踊らされてるのさ
未熟なぼくという種


桜になりたかった
詩人になりたかった
きみに、なりたかった




何度も描いた理想や空想は
ぼくを置き去りにしていった
ひとりぼっちになって
ひとりつぶやいてみる
「本当は、
ぼくはぼくになりたかった」



桜は見事で
詩人は素晴らしくて
きみはきれいだ
だけどどれももう産まれていて
どれも、ぼくじゃない

未完成なぼくという種
ぼくはぼくになりたい
誰でもないぼくに、
ぼくはなりたい



自由詩 ぼくはぼくになりたかった Copyright アルビノ 2006-08-02 09:31:50
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