笹舟
明日殻笑子
いちばんふしあわせで
かなしい場所を知っているかい
それは穢れも痛みもない
世界だよとあなた
岩清水のようにうつくしく笑った
透明の
ほかには
なにもない世界
てりつく光が
まぶしいだけの
そのうちあなた
有機物がすきじゃ無くなった と
それは腐敗がすすむから と
奴らは穢れ痛みすらしらないのだ と
言うたび岩清水がやたらに澄んでいく
透明の
ほかには
なにもない世界
なんて
ガラス細工の
中だけにしてくれ
そう笑っていたあなた
うつくしく笑っていたあなた
の いちばんほしいものそれが
透明の
ほかには
なにもない
世界になった
「そのためならぼくは穢れにも痛みにもなる」
とき、わたしが流したものは
透明の
ほかには
なにもない
涙
そう透明のほかにはなにもなかった
あなたから湧きでる
無機質な岩清水のように
いちばんふしあわせで
かなしい場所を知っているかい
それは穢れも痛みもない
世界でしょうとわたし
あの日のあなたを思いだすの
悲劇と呼ぶには少し
透明が過ぎるのだろうけど
手を放せばちゃんと
笹舟はきらきらと濁流にのみ込まれて消える