夏の次の季節
明日殻笑子

ひかりの断片がまちまちに彩る景色の
これ以上無い非日常さに腕をひかれたように
散らかった部屋を放ってわたしは外に飛びだした
今日の天気がうすくもりなのか
目にかかるレンズのうすくもりなのか
だけどそんなことはどうでも良いかの如く
彼はぎらぎらと白く強く肌を灼く
きれいなあの人をイメージして
銀色の日焼止めも買っていたわたしだけど
この日の彼にはちりっと非道く
せつない熱を感じて上を見上げたら
憂いをうすめたような笑顔がいやに真摯だから
今日くらいなら と素肌をあずけた


どこまでも歩き続けるとやがて海に辿り着いた
足元だけを夢に濡らした気分だった
その時のまま絡みつく波と遊んでいたら
いちばんお気に入りの帽子が飛ばされてしまった
だけどわたしはすぐに追いかけたい気持ちと
鳩尾まで浸かった夢の中とを天秤はかりにかけて
あの玉を七つ全部集めたような傲慢さで後ろをふり返った
気がつけば首まで夢に浸かってしまっていて
あらわれた灰色の影に思わず何か言いかけた瞬間に
頭の尖端さきまで夢の中に埋もれてしまった
何時の間にか高く遠く晴れ渡っていた空が
涙が目元で息絶えた時のように滲んで見えて
罪なきその青にひかれるように腕をのばした


――海の味が体中を浸しつくしたのがこわくて
呼吸よりずっと先に目をさました
脱ぎっぱなしの洗濯物
ああ此処はこんなにも散らかっている
戻ってきた このちいさな部屋に
戻ってきてしまったんだと――
汗か涙か感情に混沌としながら
夕暮れの赤が灼けた肌にあまく染みてゆくことだけを感じていた


夏の次の季節が秋だということを
わたしはずっと知らなかった


自由詩 夏の次の季節 Copyright 明日殻笑子 2006-07-27 21:22:08
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