いつも座られる夢を見ている
nm6

自転車のサドルってやつは、大抵ピッタリしているものだけれど、一瞬どこだか忘れてしまうその名前はさておき、色はタンカーから流れ出す按配の、石油的な黒だ。とにかく座る場所なんだけれど、それがそいつはどうもおかしかった、そのすれ違いざま、ほんの2秒のサドルは、スーパーの前に停めてあった自転車の、その色も忘れてしまったが、とにかく停めてあったのだから引き返せばいいのだけど、刹那的であることに拘ってもいなかったのだけど、とにかく2秒しか存在しないそいつは、そのピッタリしているはずの部分が少しよれていて、なんとまあ、そのしわ部分が妙にエロスな午後2時だった。



忘れ果てるための技術を。
ぼくらはどうしてか、旅をつづけているように振舞っている。



自転車のサドルが連想しているのは、決してゲームのようなものではない。けれど駆け引きの多い男女の、とにかくそれは服だったり下着だったりのそれなのだけど、面白くないことなんてない、と、言い切ってしまう色目使いの彼が一番色気がないので、せめて僕らだけは風向きに敏感に、その午後を過ごしていなければいけないと思う。過ぎていく午後を、たとえば今、この瞬間を過去といってしまうのは簡単だけれど、それはただのありふれたレトリックにすぎない、と、例えばそういう些細なことに気づかないまま彼は自転車に乗ってこの世から去ってしまうので、老いた馴れ合いが去っていくのを喜ぶ尻目に、ぼくはちょっと待て、と思うだけにして黙って見ている。



イメージの上のサドル。
イメージの先には自転車があるだろう。
よく、よく考えてみてくれ。
そうだ、おかしいと思わないか?




包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。それを包み込むもの。




忘れ果てるための技術を。
知らなくてもいいことは、とてつもなく多い。
ただ遠く東京23区外の、圧倒的に黒い空の上で、
ウイスキーを嘗めている君に、ほら。
君にあげよう。


自由詩 いつも座られる夢を見ている Copyright nm6 2004-03-01 01:28:48
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