椅子
松本 卓也

背もたれが壊れた椅子を
ガムテープでグルグル巻いて
引っ張り上げても平気になったから
安心して座り込んでみる

ぎしぎしと音を立て
暫くは平気だったけど
やがて苦労も報われず
あっけなく折れ曲がってしまう

何度強く繕っても
その度に重さに耐え切れず
一度壊れた背もたれは
二度と僕を支えてくれない

身体を深く沈めれば
力無く折れ曲がり
油断した僕は不意を突かれて
天井を仰ぎ見るばかりで

どこかで味わったような
やるせなさが広がっていく
精一杯取り繕っても
結局無駄に終わってしまう

もう何度繰り返したのだろう
今は多少マシになったけど
相変わらず軋んだ声を上げて
いずれまた折れるのだから

取り替えてしまえば良い
でもまだ使えるはずだ
意味のない愛着に縛られて
決断を先送りしていく度に

取り返しがつかないほど
ボロボロになった背もたれに
存在を委ねようとして
傷ついていったはずなのに

こんな些細な事でも
過ちを繰り返しているのが
身に染みるほど分かっているのに
繰り返してしまうしかなくて

僕の重さに耐えられる椅子は
探せば見つかるだろうけど
僕の心に耐えられる人は
探せば見つかるのかな


自由詩 椅子 Copyright 松本 卓也 2006-07-18 23:54:52
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