ひとり暮し
こしごえ

初めての海で
吸いこんだ
風のにおいはふるさとのようで
わたくしは、ただ
何万年も佇んでいたような砂浜の印象へ
飛びこんで
いまこの波の揺らぎに没しようと

荒れんばかりの幾多の波の
底に降りつもる哀しい雪は
わたくしの穴という穴(視線も例外ではなく)
を天文学的数字で裏返し
わたくしの名を失わせる

名の無い者の声は
かすかに震えたかと思えば
かつて凪いでいた水平線へと溶けてゆく
太陽の重さ
に焼けて煙となり
そう雲となって


夜の雨はなんだか遠いにおいがした
そう帰れないような
けれども
雨は帰った
これは
どこへ
漂うというのか
ふらふらり ふらり

ひとつひとつ ひとつ(
降り落ち流れた志向性
この声が震えていった
雨音
ひとり)聞いている影
水の歴史
にそう
人の歴史
命 繰り返す
この話は、そう
これでお仕舞

帰る必要があるのか
ところで
帰る場所は?
流れ続けるということ
ひっそりと静かな家に
足を踏み入れ
海の月が満ち欠ける


どこかで雨が止み
いずれ雨が止み
水溜りを飛びこえる影が口遊くちずさ

舟の影が
朝日に浮かぶころ
わたくしの底までも渇くだろうが

冷蔵庫では
いつかの魚が、泳いでいる目差で
こちらを見つめていた








自由詩 ひとり暮し Copyright こしごえ 2006-07-10 15:10:13
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