Voyage
恋月 ぴの

洗面台に両手をついて
鏡面にうつる
わたし自身の姿に
すまし顔のわたしを脱ぎ捨て
背後から
すべてを包んでくれる
あなたの胸元にすがりついてしまう
ひとは誰もそうするように
突きつけられた現実に目を背け
束の間の夢見に溺れていたい
うなじに打ち寄せる
あなたの熱い息づかいは
わたしの思うままであって欲しいのに
高鳴る期待を弄んでは
とどめの瞬間を窺う野獣のように
いつまでも動こうとはしなくて
(早く動いて欲しいのに
焦らされて
あなたに焦らされて
火照った頬は宙をさまよって
感じてしまう
はだけたバスローブも
洗面台に置いたネックレスも
あなたとふたりで
あてどない航海に船出する貨客船の
船尾に沈む
夕陽を名残惜しく見送りながら
遠ざかる
どこまでも遠ざかって
何故か取り残された気がして
あなたの腰を両手で急かし
後退するすべてのものに追いつこうと
スクリューのうねり泡立つ波間で
あなたの動きにねじ伏せられて
しろうさぎ遠く跳ねた夏の夜の夢





自由詩 Voyage Copyright 恋月 ぴの 2006-07-09 06:27:43
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