森の断章——デッサン
前田ふむふむ

ひかりをふところに浸す、
みどりのまるみが、いのちの数式を
一面につめこんだ、
萌え上がる、眠れる森に、鬱蒼と、
うすきみどりを染め上げて。
満たされた隙間を、みずいろの風が、繰り返し、
芳しい音を上げて、たちのぼる。

あなたは、亜麻色の髪を、
白い手でたくしあげて、
流れる時間のほころびに、
凛としたほおを添えてみる。
追いかける空の群青に走るおもいは、
鮮烈な波をおこして、激しく揺れ動き、
あなたは、瞳のなかで、きよらかに高められて、
恋人との白昼の鼓動を、熱く爪弾いてゆく。

滴る森のみずいろと交わる、あなたの吐息。

目覚めた昂揚が、小さな胸の底辺に
ふかく積もりつづける。

放射する日差しは、
あなたの微笑をゆっくりと溶かしながら、
思わず込み上げた、溢れる声は、
短くこだまを響かせて、
無防備に佇む恋人のしぐさのなかに、
流れ落ちている。
濡れたくちびるを恋人のこころにあてて、
あなたは、森の息吹の階段を、
しずかに昇りつめてゆく。

仄かな恋人の言葉が、あなたの若い芽を、
まどろんだ湿地にいざなって――
比喩の森の断章が、
あなたの二十歳の淡い視界のなかで
軟らかく立ち上がる。


自由詩 森の断章——デッサン Copyright 前田ふむふむ 2006-07-09 00:14:07
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