暗い粘り
atsuchan69

過去が染みる 黒く舗装された路面の 暗い粘りが、今しも
うごめき 波を打ち、群がる人々を蹴散らして 盛り上がる
ビルの高さにまで及ぶ累積した罪の記憶、破天荒な生の挑戦
あるいは無意味な天変地異か 定かではないが、空をめざし
塊りは生き続けた、夏の炎天下にも突風にも 稲妻に撃たれ
一度は粉々に砕かれても、落ちたアイスクリームの 刹那を
記録し、バイク乗りの少年が転んで死んだ、鮮烈な あの色
頭蓋骨から飛び出した、すこし青みがかった灰色のメモリー
酔っ払いが撒き散らした 匂い、犬の死骸、それらを記録し
夜を記録し 真昼を記録し やがて秋が来て 冬、雪が降り
埋もれてゆく世界に 彷徨う路上生活者たち、彼処の焚き火
暴動、鎮圧、そして夥しい凍死者、屍を踏み、足早にすぎる
雌豹、芳しい香りを残し 雪に覆われた世界が 叫びを消し
美しさだけが燦然とかがやく 白い街 その地下深くに染み
もはや逃げ場のない 困難ともいうべき状況を、誰もが悟り
見上げるのは、暗い粘り 塊りの塔、凍りつき動きもしない
が、その時、先端から真下へ亀裂が生じ、突然、ブルブルと
個体を揺さぶると、見よ、暗い粘りが暖かなひかりを 灯し
表皮をやぶり、現れたのは、樹! 大地を震わす緑と 繁み
大いなる巨木、その枝葉に 万物が宿る 訪れる小鳥たちよ
自由を歌え、子等よ 思う存分落書きをせよ、アイスを拾え
夏が突然やって来たのだ、我侭な女のように突拍子もなく!


自由詩 暗い粘り Copyright atsuchan69 2006-07-08 03:27:05
notebook Home 戻る