うろこ
霜天

事故でしょうか
街は騒ぎ始めて
右手と左手を合わせるカーブは
さよならを言う前に出会ってしまったのでしょうか

空はまだ海になる前で
息継ぎも満足に出来ないまま
底で跳ねるうろこの心音を
どこかで聞いたような気がします

誰のためとは言えないような
明日に繋がるとも思えないような
浮上する出口は何を選んでしまいましたか


事故、でしょうか
窓際に君は心音を沈ませて
女性のうろこを一枚、落します

寒い、と言って言葉を重ねあい
暑いねと薄い行間で支え合う
抱き合える季節はどこにありますか
約束ばかりの明日が、寄り添う涙を見せて

今夜は眠れるでしょうか
深海のようなこの街に
運ばれる誰かの深呼吸は
僕らに気付いてもらえるでしょうか



こうして
なりそこないの夢を
語り合わせた後で
ほんの少しつまんでみると
誰にもなれなかったうろこが
からん、からんと落ちていくのです
みんなが、みんな別れていくのです



待ち侘びながら覚えた
色付く涙のことですから
明日の朝にはうろこになって
守ってくれるはずですから

事故の、夜でした
二人はうなだれる窓辺に
ねじれた時計に、時間は確かに追いついてきました
祈る言葉はどれほどあるでしょう
そこにある出口に何を見ましたか


事故でしょうか
誰も知らないのでしょうか
ソーダ水が静かに弾けていくような
ほんの夜でした


自由詩 うろこ Copyright 霜天 2006-07-08 02:42:14
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