午水譜
木立 悟




屋根と空
ふたつの雨が話している
風の色は 庇に重い
遠い音 遠い文字
木々をふちどり またたいている


線の光が
線の光に出会い 途切れ
分岐に蒼を残し こぼれ
遠くに震えを見るものの目を
ひとつひとつやわらかくする


隠され
見出されたふくよかなものが
午後の上に眠っている
羽は通りすぎてゆく
風の色は変わりつづける


縦に大きな白い雲が
空の重なりを昇りゆく
幾度も幾度も 高く高く
白は雲を置き去りにして
白を知らぬ空を梳く


滴のなかに滴がつらなり
わずかな風に震えている
奏でぬもの 奏でられぬもの
採譜もなく伝承もなく
ただ響きつづけるもの


午後が午後のまま夜をゆく
生きものは見えない火を紡ぎ
さだめなきかたちに羽を編み
飛べるものにも飛べぬものにも
雨粒のように手わたしてゆく











自由詩 午水譜 Copyright 木立 悟 2006-07-01 16:36:29
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