『カナリヤのテルヒコ 2003』
川村 透

窓を開けてテルヒコが部屋へ入ってきた
アキヒコと名乗りわたしのベッドにもぐり込む
夜は深く闇の中で身をこわばらせるわたしの隣で眠るアキヒコ
焦げ臭さとほこりっぽさがわたしのベッドを焦がす

いかれたヤマハのバイクのエンジンはかけたままアイドリングが聞こえる外

カナリヤは驚き騒いでもわたしはカナリヤじゃない
窓が割れ窓枠もきしみ悲鳴をあげてぎしぎし言ってもわたしは窓をしめない
鳥篭が床にころがりカナリヤが窓から逃げてもわたしはカナリヤじゃない
いかれたヤマハのバイクをおりてからテルヒコはアキヒコのままテルヒコじゃない
眠るアキヒコはもうテルヒコじゃない
猫よりも丸く眠りの中のテルヒコはベッドの上で寝息を立てる
ガガガガガガガガガガガガガ
眠るアキヒコは今だけはテルヒコを休むの...
眠るアキヒコはテルヒコの夢を見てるわ...
ダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダ

テルヒコのビートが洩れる
笑ってるんだとわたしはいとしく思う
でも目の見えないわたしにはテルヒコは遠い
だから目の見えないわたしにはアキヒコがいとしい
いつものように手さぐりで明りを消すからテルヒコ
 疾走するテルヒコの夢は アキヒコのカナリヤ
いつものように手さぐりで明りを消すからアキヒコ
 疾走する アキヒコの夢はカナリヤのテルヒコ
ダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダ

テルヒコのビートが洩れる
笑ってるんだとわたしはいとしく思う
いつものように手さぐりで明りを消すからテルヒコ
いつものように手さぐりで明りを消すからアキヒコ

オイルの匂のするシーツかきよせて今だけはわたしのものアキヒコ
いかれたヤマハのバイクをおりてからテルヒコはアキヒコのままテルヒコじゃない
眠るアキヒコはもうテルヒコじゃない
オイルの匂のするシーツかきよせて今だけはわたしのものアキヒコ
猫よりも丸く眠りの中のテルヒコはベッドの上で寝息を立てるわたしに触れてる
GOOD−NIGHT...
アキヒコの眠りの中で疾走するテルヒコ



自由詩 『カナリヤのテルヒコ 2003』 Copyright 川村 透 2003-04-11 22:16:42
notebook Home 戻る  過去 未来