着替え
たもつ


服を買って着替える
着替えている途中にそば屋があったので
天ぷらそばを注文する
持ってきたのは昔の恋人だった
昔のように優しくしてくれた
着替えをしながら自分はそばだけを食べ
天ぷらはあげた
終わらない着替えのまま
交差点で信号待ちをしていると
知らない人に市民会館への行き方と
これからの生き方について聞かれた
前者はなるべく丁寧に答えた
後者は着替えで手一杯だった
入浴中の音が聞こえる家の前を通り過ぎ
きれいな色のプラスチックが並ぶ百円ショップに出る
県道を更に進み
コップを倒し水に濡れる
何かを踏みつけて
足音が想像できなくなる
もういい加減止めたい
でもそれは着替えではないと思う
というより寧ろ思いたいのだと自分に言いきかせたくなる
実家からダンボール箱いっぱいの衣服が届く
おまえは着替えが下手だから
と散々言われてきたのに
おまえは着替えが下手だから
と手紙にも書かれている
ここからも同じくらい美しい空が見えます
嘘の返事を書く
そうこうしているうちに
ただ日ばかりが暮れていく
他に暮れるものなどないのに
着替えだけが何の約束もされることなく
どこまでも続く



自由詩 着替え Copyright たもつ 2006-06-28 17:34:46
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