飛べない鳥
杉菜 晃

 落葉の中を走る鳥は
 悲しい鳥だ
 飛べないかはりに
 足は太く節くれ立つて
 駝鳥の足のやうだ

 このしつかりした足で
 枯葉を大仰に鳴らして
 進むのだから
 化け物が暴れ回つてゐるやうにも
 思ふのだ
 実際は翡翠かはせみほどの大きさながら
 忍び歩く狐などは
 怯えて遠くから観察するだけだ

 もし飛べない鳥と知つたときは
 どうだらう
 そんな場合でも
 この鳥は悲しみに耐へてゐるだけに
 勇敢なのだ
 まづ獣たちに足で歯向かひ
 それで撃退できないときには
 嘴で相手の目を突き破つて
 その中を駆け抜ける

 目の中を突き抜けた鳥は
 視線の速さを獲得するのだ
 それからは 弾丸のやうに
 直進していく

 飛べない鳥の悲しさは
 悲しんでばかりゐられない
 悲しさだ

 今も鳥が一羽
 落葉の中を疾駆していく
 係累を脱出し
 もう鳥類ですらない
 思想 哲学 学識
 それらしがらみを超え

 間もなく岬の突端に出て
 そこからは海面上を
 火の玉となつて加速していく
 群れ飛ぶ鳥を
 遥かに抜き去つて
 遠く
 とほーく
 流れて
 宇宙を一巡し
 新しい天の
 星となる
 



自由詩 飛べない鳥 Copyright 杉菜 晃 2006-06-24 00:27:47
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