良き思い出に告ぐ
きりえしふみ

さあ 風よ どうぞ 吹いて来て下さいな
あの懐かしき日の夕べの面差しのまま
少し寂れた けれども優しい雰囲気と
そして たおやかでしとやかな その仕草で
わたしの両肩に止まって見て下さいな
寄り道がしたい そんな昼下がりには
さあ こちらです
風よ わたしへ舞い戻って来て下さい

さあ 火よ こちらへいらっしゃいな
そんなに慌てて 新しい刻々へ 日々へと
移ろうばかりはやめにして
急ぎ足の一足の靴を脱いでおしまいなさい
そうして取り分け 使い古されたようなランプに
使われなくなって 久しいあの燭台に
なるだけ薪をくべてごらんなさい

例えばその地に風が香れば
千々と千切れた思い出も
一連の首飾りのように一つに連なる
例えばそこに火が灯れば
誰もがほうっと
懐かしさに癒される
例えば枯れ木ばかりが目立つ 淋しい森に
一房の林檎が実ったように
塞ぎ込んだ心にも ひだまりが感ぜられる

 いつもは眠っているように しんとして

それでも時々は 思い出よ
こうして返って来て下さいな
わたしの元へと どなたの元へも
まるで飛び立った故郷へと 日帰り旅行をするかのように

(c) shifumi_kirye 2006/06/23


自由詩 良き思い出に告ぐ Copyright きりえしふみ 2006-06-23 21:36:00
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