地の花
木立 悟


山へと向かう道の角を
一本の木からあふれた花が埋めてゆく


新月の原
うずくまる獣
高く低くつづく夜


響きのなかに現われる
草色の歌
波うつ獣の背の上に
花の名をつぶやく口もとに
在りつづける歌


光が油のように岸を流れる
水が水に影を落とす
魚が泳ぐことなく
激しく回りながら
隠された翼をひろげるとき
独り歩む子の巨大な背が
シリウスの雲間を過ぎるとき
夜を見つめるものはみな
変わりはじめるものとなる
丘の上から去り
雪に覆われた川を下り
夜の河口にたたずむものとなる


午後の時計が指さす先に
光の蝶のゆく道がある
風が風を鳴らしてゆく
にじむ光と羽の間を
見えないものたちの音が過ぎてゆく
さざ波の上に立つ演者
架空の街の生活者
今日で終わる永遠の
ざわめきのなかをめぐりゆく


朝の空から
曇りの空から
誰もいない心の内へ
繰り返し見舞う痛みの冠
すべてを奪うようでいて
なにものをも奪えずに
終わりを知らないはじまりの
よろこびの花のなかに沈む
終わりを越えたはじまりの
天の花 地の花の器に沈む





自由詩 地の花 Copyright 木立 悟 2004-02-23 06:36:00
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