三日月の部屋
藤原有絵
世界のありったけの明かりに負けず
その人の背中越しに三日月が見えた
一瞬で長い腕がそれを遮る
活路を見出さなくてはね
しっとりした声で
それはそろりと湖底を撫でるよう
口が肩で塞がって
そっと手のひらを揃えて
夜闇が私の瞼にのっかって
目を閉じる あの瞬間
三日月が滲んだ
夜に消えてしまう
高い塔のてっぺんで
おそろしく 静かな部屋で
ぐしゃりと何かが潰れる音がした
慌てて耳を塞いだら
頭の中で反響して
もう
気が狂いそうだった
月が見ている
月が歪んだ
月が壊れる
そして
暗転