communication breakdown (4〜6)
アンテ


                      communication breakdown (4〜6)

  川原

川原にきれいな花が咲いていたので
スコップで根ごと掘り起こして
スーパーで安売りしていた鉢に移して
持って帰った
たっぷり水をあげて
買い置きの肥料を土に挿して
テーブルに飾った
きみの帰りを待ちながら眺めているうち
ついつい眠ってしまって
目をさますと
きみはキッチンで夕飯の仕度をしていた
ふと手を止めて
ねえこの子なんていう名前なの
きみが真顔で訊くので
リユン
と思いついた名前をつけると
きみは反対も賛成もしなかった
花は結局三日目に枯れて
跡形もなくなった
土を返しに川原に行くと
きれいな花が咲いていたので
スコップで根ごと掘り起こして
鉢に植えた
持って帰る途中
呼ばれた気がして振り返っても
だれもいなかった


  整理

机を片付けていると
懐かしい写真がたくさん出てきて
中断してアルバムに収めようとすると
未整理の写真がいくつも挟み込まれていて
時系列に仕分けしようかと
テーブルに広がった小物や書類を一時撤去していると
直そうと思っていた写真立てや
見当たらなかった鍵などが出てきて
そのたび道具箱の接着剤を探したり
諦めていたカバンを押入れから引っ張り出したりと
あたふたしていると
くすくす笑い声が聞こえて
振り返ると
部屋の入り口にきみが立っていた
そんな楽しいことを
まさか独り占めするつもりなの
きみは腕まくりをして
嬉しそうに両手の指をこすり合わせて
見よう見まねで
家じゅうの物を左右に動かしたり
まぜこぜにしはじめた
そうじゃないよほらこうするんだって
教えてあげると
うんうん
きみは素直に耳を傾けた


  中身

ずっと気になっていた本を
ぐうぜん本屋で見かけたので
さっそく買って
カバンに大切にしまって帰った
きみはいつものように
とても静かでやわらかい音楽をかけて
ソファのお気に入りの席で
このところずっと読んでいる本を開いていた
お茶を二人分入れて待っていると
きみは本を最後まで読み終えて
ぱちんと硬い表紙を閉じて
ごめんね我を忘れて本ばかり読んでて
人差し指で鼻の頭をかいた
テーブルに置いた本を見ると
さっき買ったばかりのものと
同じ題名が記されていた
ねえねえ読みたい? 読みたい?
読みなさいって言いなさいよぉ
二人ならんで音楽を聴きながら
お茶を飲んだ
考えれば考えるほど判らなくなって
手をもじもじさせていると
突然きみがくすくす笑い出した
どれが落ち込んでいる理由なの?
素直に本を指さすと
きみはぼくの頭をぺしぺし叩いた
莫迦ねえ
表紙をよく見ると
巧妙に作られたブックカバーで
中身は別の本だった





自由詩 communication breakdown (4〜6) Copyright アンテ 2004-02-21 01:09:08
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