労働者の哀歌-名古屋編-
松本 卓也

一泊五千四百円の
十階から覗き込む
見慣れない街の灯りは
夜が更けるほど明るく
時が経つほどに寂しい

小窓から隣の駐車場を覗くと
一人きりの姿が振り返り
何故だか視線があった気になり
カーテンを閉めて震えた

遮られた音が連なって
耳元に聞こえるはずの無い
心の欠けた言葉が圧し掛かる

虚像を一つずつ積み重ねながら
今日を生きた意味を問い詰めると
雲ひとつ無く星の見えない空が
いつもより近い場所にある気がして

明日になったら飛び立つのだから
その向こうに行けばまた一つ
見たいものと見たくないものが
見てきたものと見たくなかったものを
無造作に書き換えていくのだろう

だから今だけは
誰かが敷いたキャンバスに描かれた
現実と悲哀が彩る夢の轍を
楽しむ余裕を与えてくれ

少しだけ違う場所で
少しだけ違う夢を
少しだけ違う眠りを
昨日より深い安らぎを


自由詩 労働者の哀歌-名古屋編- Copyright 松本 卓也 2006-06-09 00:46:03
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