長期休夏
霜天
いつだって夏は長かった
測量を終えたばかりのヘルメット姿が
今年もだ、とかそんなことを言っていた
確認したがるのは何故だろう
何日と、何時間何分何秒
それを知ったところで
今日も君は
左腕が動かないの、と
部屋に閉じこもり
僕は僕で
朝から吐き気がするよと
珈琲だけを飲んで
文字の間を泳ぐ
夏バテ、とか存在するものに逃げずに
ただ無為に、一日を遊覧した
それを繰り返した
二人はそれだけだった
*
電話には誰も出なかったし
掛かってきても出るつもりもなかった
街は大きな空白になっている
寄り添っていた人々は離れ離れて
休む夏に寄り掛かっているのだろう
そういえば、隣の林さんも最近見かけない
挨拶を交わした記憶がないのは、いつからだろう
そのことに誰も触れないのは
みんな何かを知っている、せいなのか
そこには誰がいたのだろう
僕は僕で、空白の街に行方不明になる
*
君の夏は、一向に良くならない
あの裏道に化石が落ちているらしいから、と
投げかけるボールは、音も無く打ち返される
ひとりでそこまで見に行くと
色んな生き物が集まっていた
輪の中心には、君と話した足跡が
石のように重く、重ねられていた
気のせいか、君の靴よりも大きくなっている
集められた生き物たちは
みんな、薄い顔をしていた
僕もそうだったのかもしれない
*
神社の石段
夏の真ん中でそこだけは
切り取られていくようだった
座ってみると、心音を盗まれたように
僕まで平面になってしまう
冬ならば重ね着をする方法も
知っているのに
*
君の夏はまだ終わらない
迎えに行こうかと思ったけれど
覗いた部屋はあまりにも静かで
ドアノブから手が、離れなくなってしまう
もう少しだけ夏を続けよう
何日と、何時間何分何秒
そういえば腕時計は、いつの間にか壊れていた
誰にも言わない一日はどこへ行けるだろう
今はまだ、夏の途中ということにして
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