「僕」in the mirror
AKiHiCo

手を伸ばせば届くと信じていた
あの硝子の向こうに拡がる世界を
この眼で見てみたい
それだけなのに
掌は冷たい硝子に触れて
もうキミが冷笑している

僕の脚には荊が纏わり付いて
ここから抜け出せない
いつからここに居るのかさえ
最早判らなくなって
気付けば時計は反対に廻り
人々は後進している

僕はどこにいるのか
狭いどこかに閉じ込められているようで
広すぎる荒野に佇んでいるようで
正体の掴めない僕がまた冷笑している
頬を硝子に付けると
もう一人の僕と触れ合う
硝子越しで静かに呼吸する音
鼓動が伝わってくる
硝子越しの僕は生きている
果たして僕も生きているというのだろうか

僕はキミの影で
影はずっと影のまま過ごす
鏡の中でキミがここに近づいた瞬間にだけ
生命が吹き込まれる哀れで脆い影
キミは走り出せばいい
僕をここに置いて

危うくなる足許
締め付けられる脚は
僕をここに留まらせる
これ以上前へは進めない
でもキミはここから離れようとしている
消えてゆく意識の中で
僕は硝子の向こう側に憧れを抱く


自由詩 「僕」in the mirror Copyright AKiHiCo 2006-06-02 02:47:55
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