イトーヨーカドー
石畑由紀子

北海道の地方都市では
量販店はひたすら郊外型になってしまって
駐車場は平地で2000台収容
回転式のエントランスに
何カ所にも設置されたエスカレーター
天井は高くて空気もよくて
新宿のビックカメラなんかとはハコが違うよ

でも

どんなに改装をして
どんなにスタイリッシュなチラシを作っても
そこがヨーカドーであることに変わりはなくて
例えば同じ色形のセーターが何枚も平積みされていて
ウールにはアクリルじゃなくナイロンが混ざっていて
2300円だったりする
一度洗ったらリブが伸びきってしまいそうで
手が出せないな

でも

いつまでたっても口だけで
いっこうに妻と別れる気配のない男より
私を温めてくれるものはいくらでもあって
いっそ生き物じゃないほうが
よっぽど優しいのかもしれなくて
おもちゃ売り場では
電池で動くチワワが飛ぶように売れている

でも

アクセサリーコーナーで
小一時間ほど悩んで
ワンコインで買えるイルカのピアスを選んだ少女は
ラッピングしてもらったそれを大事そうに両手で受けとり
回転式エントランスに向かう
そのデザイン、あなたのお母さまにはたぶん子供っぽいだろう、けれど
プレゼントの喜びはもっと違うところに舞い降りるものだ
包みは誇らしげに
少女の歩調に合わせて小さく揺れる



食品売り場横のベンチで
老夫婦が休んでいる
そのとなりでは一人の妊婦が
二人で座っている



そういえば
白いハトは平和のシンボルだった
この国は平和なのだろうか
とてもそうは思えない
けれど
少なくとも
不幸ではない

そしてたぶん
私も






自由詩 イトーヨーカドー Copyright 石畑由紀子 2004-02-18 01:29:24
notebook Home 戻る